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親 しん 善 ぜん 大 たい 使 し 、としての役割を果たし、サンファン王国から帰国したバルドたちを待ち受けていたのは マウリシア王国を挙げての祝 しゅく 典 てん 。だった 友人テレサは養子とはいえ、形式上は歴 れっき 。としたマウリシア王国国王、ウェルキンの娘となった 。その彼女がサンファン王国の新王太子、フランコと婚約したのである しかし同時に、サンファン王国の王位継承を巡る争いに巻き込まれたバルドが、サンファン王国 。これはもちろん、二人の恋が実った結果だ とマジョルカ王国の海軍を味方につけ、トリストヴィー公国を根城にする海 かい 賊 ぞく を相手に獅 し 子 し 奮 ふん 迅 じん の 。活躍を見せなければ、こうなりえなかったのも事実である マウリシア王国第二王女レイチェルの婚約が、前サンファン王国王 おう 太 たい 子 し だったアブレーゴの死去 によって頓 とん 挫 ざ 。していたため、マウリシア王宮は必要以上に祝典を盛り上げることとなった テレサ姫、万」 ばん 歳 ざい 「! 「!ウェルキン陛下、万歳」 「!マウリシア王国、万歳」 。もとより民衆というものは、この手の立身出世物語を好む 。降って湧いたようなこのシンデレラスト

もちろんテレサは、序列は低いがあくまで貴族であって、平民ではない。しかし、実家のブラッ ドフォード家は戦争で武 ぶ 勲 くん 。を立てて貴族に列せられた、騎士の家系である 今は平民であっても、遠い将来には一国の王族に成り上がることができるかもしれない――そん な想像を膨 ふく 。らませ、民は熱狂したのだった とくにウェルキンの構造改革で利権を失ったり、自らが支配する職域に平民が進出してきて将来 。だが、そうした空気を苦々しく思う者もまた存在する まったく嘆」 。に不安を覚えたりしている貴族たちがその中心であった なげ かわしい。子 し 爵 しゃく ごときの娘を、他国とはいえ王家に差し出すとは。マウリシア王国の あの娘は男装を好む鬼」 「!品格を問われようぞ おに 子 ご だというではないか。そんな娘ではかえって、サンファン王国との間に 禍 か 根 こん 「?を生むのではないか 王太子の相手に相」 ふさわ 応しい娘は、ほかにいくらでもいたであろう。そもそもなぜレイチェル殿下で 「?はいけないのだ 彼らは貴族のなかでも一段低く見られがちな、辺 へんきょう 境の武官貴族から王太子妃が出たことに衝撃を 。受けてさえいた しかしよりにもよって、剣を振るうしか能がない武官貴族の小娘が、彼らの頭越しに王族となる 。王族や十大貴族家ならば

ことに、自分たちが最後にすがるべき権威までもが侵 おか 。される予感を覚えたのである !しっ」 「?このままでよいと思うか――」 滅多なことを言うものではないぞ。あの国 おかた 「王はよい耳を持っていることで有名なのだ 「!ふん!このなかに裏切り者などおらぬ」 集まった貴族のリーダー格を気取る三十半ばほどの男、ヘイスティングス伯 はく 爵 しゃく ヘンドリックは一 いっ 喝 かつ 。して立ち上がった ?かし忘れたか 権力とは常に相対的なものだ。確かに現在我々は、相対的に地位が低下しているかもしれぬ。し」 かの戦 せん 役 えき まで王宮は、官僚も軍部も制御することはできなかったのだ。あの戦役 「!さえなければ、今も十大貴族に頭も上がらぬ有り様であったろうよ この発言は、まさに正 せい 鵠 こく 。を射ていたと言ってよい わずか十年ほど前まで、彼ら貴族は今ほど権利の維持に汲 きゅうきゅう 。々としていたわけではなかった むしろ貴族の支持なしには政策も作戦も実現できず、国王や宰 さい 相 しょう は度 たび 重 かさ なる妥協を強 し いられてき 。たのである あの戦役さえなかりせば――もっとも、戦役で多くの貴族たちが犠牲となり力を弱めたのは、彼 らの勝手な思 おも 惑 わく と暴走によるものであったのだが――そう考てしまうのを、誰も止めることなどで この十年を、王宮は自らの権力拡張に費」 。きなかった つい やしてきた。忌 いま 々 いま しい平民の成り上がりがそれを後押し

している。今や我々は王宮の顔色を窺 うかが い、生き残るために逼 ひっ 塞 そく 「を強いられる始末 ヘンドリックは拳を握りしめて言い募 つの 。る ば簡単に粛 すでに幾人もの同志が没落した。このまま傍観を続ければ我々の正当な権利は失われ、抵抗すれ」 しゅくせい 清される日が来るだろう。かつての栄光を取り戻すために、我々は今こそ行動すべきな 「?だが下手をすれば、すぐに粛清されてしまうぞ」 「!のだ 。それが国王からの警告であるということを、当然彼らは理解している 。先ごろ司法省や財務省の官僚貴族が見せしめのために処罰されたのは、未だ記憶に新しかった もちろんまともにはやらん。今は条件が悪すぎる。しかし、いつまでも座」 ざ して待つつもりはな い……戦役が我々の力を削 そ 「?いだのならば、逆に国王の力を削ぐこともできるとは思わないか ヘンドリックの言葉は、自分らの力で状況を打破できない没落貴族にとって非常に魅力的に思わ 。れた それはごく単純な天びんであるかのように彼らは考えていたが、天びんに載せられるのは決して 。相対的に国王の力が減少すれば、再び貴族の力が上昇する 。国王と貴族だけではない この世のすべて――例えばマウリシア王国と仇 きゅうてき 敵ハウレリア王国もまた、天びんの両端に載せら 。れ

その近視眼的な思考こそが、自身の没落に繋 つな がったということを学習するには、彼らはプライド まったく、テレサ嬢――」 。が高すぎたのである じょう 「を養子にしてくれと言われたときは何事が起ったかと思ったぞ 面」 めん 目 ぼく 「次第もございません 明らかに横 よこ 紙 がみ 破 やぶ りをしたという自覚があるだけに、バルドは額 ひたい に汗を滲 にじ ませて平身低頭するしか 。なかった 。ことが無事収まったからいいようなものの、失敗していれば首が飛んでもおかしくない話である 。どこの世界に、国王に養子縁組を要求する伯爵家の息子がいるだろう 今さらながらバルドは、無謀な真似をした、と背筋が寒くなる思いに囚 とら 。われるのだった まあ、結果としては最上だったがな。余」 よ としてはサンファン王国に恩を売れればそれでよかった 「......のだが、まさか王太子に嫁まで見つけてくるとはなあ 呆 あき れたかのように肩をすくめて、ウェルキンは豪 ごう 快 かい 。に笑った ウェルキンはサンファン王国から申し込まれた別の婚姻話を断った穴埋めに、せいぜい向こうの 。心

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